ノーラン・ライアンといえば、言わずと知れたメジャーリーグを代表する伝説の剛球投手。100マイル(約160キロ)を人類で初めて計測し、通算5714奪三振・ノーヒットノーラン7回はいまだ破られない金字塔。中でも40歳からの4年連続リーグ奪三振王や46歳で157キロを出したことは驚愕以外の何物でもない。
今回私は、名著と名高い『ノーラン・ライアンのピッチャーズバイブル』を読んだ。
さらにライアンのピッチング動画もYouTubeで再確認した。(いま見ても恐ろしいまでの豪速球とカーブ!)
その結果、ライアンに似ているのは、「和製ライアン」といわれるヤクルトスワローズ・小川泰弘投手よりも、むしろ読売ジャイアンツ・菅野智之投手のほうではないかと思うに至った。
そこで、菅野投手のどこがライアンと似ているのかを書いてみたい。興味ある人は読んでみてください。
小川投手が似ているのは左足の上げ方
その前にまず小川投手について。そもそも小川投手のフォームはライアンと似ているだろうか?少なくとも、左足の上げ方はそっくりだ。小川投手は大学時代に上記の本を読んでライアン流を取り入れたという。本の表紙と比べても瓜二つだ。

ただ、ここからホームベース方向に向かっていくときに、小川投手は一度大きく重心を下げる。軸足の右膝を屈曲させ、お尻が地面に近づく。右足に充電されたパワーを一気に爆発させるような投げ方だ。

重心を下げたぶん、投球動作に入る初期コッキング期では上体がやや上向き加減になる。

私は実際に球場で小川投手の投球を見たことがある。1塁コーチスボックス後方の席から(つまり小川投手の背中側から)見たのだが、テレビで見ていたイメージよりもさらに深く重心を下げるフォームに驚いた。
これはこれで特殊なフォームであり、小川投手の武器でもあるが、強靭な大腿部をはじめ身体全体にパワーがあるからこそできる投げ方といえるだろう。ただ、本家ライアンとはずいぶん違うように思える。
ライアンはフォームについて本の中でこう記している。
トム・ハウス(注;ライアンのコーチ)はこの“高い位置から倒れ込む”投げ方をレンジャーズの若手投手たちに教えている。これは昔多かった“沈み込みながら投げる”――つまり弾みをつけるために投球時にピッチャープレートを蹴るのとは正反対の投球法だ。(中略)高い位置からだと、ボールのリリースポイントが高くなる。この点が沈み込み投法と違った点で、私も若いピッチャーには高い位置から倒れ込む投げ方を勧めている。
『ノーラン・ライアンのピッチャーズバイブル』(50~51頁)
ライアンはまた、「沈み込み投法」は<年をとるにしたがってきつくなる。体力を要求する投げ方だし、カーブを投げにくい>と書いている。小川投手のフォームは、この「沈み込み投法」に該当するのではないか。相当な体力を必要とするし、それだけ身体の負担が大きく、故障のリスクが高くなる。
小川投手が、ライアンの本を参考にしながらも、なぜ“倒れ込む”フォームにしていないのか大変興味深い。推測するに、上背が無いぶん(171センチ)、高さよりも下半身を中心としたパワーを利用するフォームに落ち着いたのではなかろうか。
菅野投手について書くつもりが、つい小川投手に文字数を費やしてしまった。ここから本題。
菅野投手とライアンのフォームを比べてみる
連続写真で菅野投手とライアンのフォームを見てみたい。


正面からのフォームで一目瞭然なように、左足を上げたあとの、ステップしていく2以降の身体の使い方が酷似している。
- 高い位置から倒れ込む重心の使い方
- ステップしても上体を開かない粘り
- 伸ばしたところから脇腹に巻き込んでいく左腕の使い方
- 小さなテークバックからスリークォーター気味に振り出される右腕の使い方
- 安定した左足に上体が乗っていくフォロースルー
しいて違うところを挙げるとすれば、1の「左足の上げ方」で、菅野投手はライアンほど高く上げていない。ただ、『菅野智之のピッチングバイブル』を見ると、菅野投手は左足を高く上げて立つ瞬間を<投球動作の中で、最も大切にしている>(同書・12頁)と書いている。この瞬間を重視している点では、ライアンと一致する。もっとも投手は(特に日本の投手は)、みな重視していると思われるが。
特に似ているのは「右腕の使い方」
特に似ているのは「右腕の使い方」 で、上体が打者方向に開かないうえ、さらに右腕を隠すかのように小さなテークバックから投げ込んでいく。
以前、菅野投手のキャッチボールを正面からとらえた映像に衝撃を受けたことがある。ボールの出所がまったく見えない。バッティングマシンに例えるなら、アーム式ではなく、タイヤ式。 右肩付近からポンと飛び出てくるように見える。 これでは打者は打ちにくいはずだと、合点がいった。ちなみに、カープの野村祐輔投手も似たようなタイプだ。
打者から見ると、僕はゆったりとしたフォームから感じる力感よりも、ボールが“来る”タイプだと思います。打者もタイミングを計って打ちにくるわけですが、この横の動きの粘りが打者のタイミングを狂わせて差し込んだり、前に出させたり、空振りさせることにつながるのだと思います。
『菅野智之のピッチングバイブル』(14頁)
「横の動きの粘り」とは、ステップ時の上体の捻転のこと。上体が開かないことと、右腕が見えないことが、菅野投手の大きな武器になっている。
冒頭のライアンの動画を見てもらえばわかるように、ライアンもまた小さなテークバックからズドンと投げ込む。速いだけでなく、出所が見えにくいことで、さらに打者はとらえにくくなる。

これは横から見たフォーム。4~8までの上体の捻転と、小さなテークバックが特徴的だ。打者には菅野投手の右腕はほとんど見えないだろう。
今度は後方からの画像。


3~7あたりは驚くほど似ている。菅野投手はライアンを研究しているのだろうか。とても興味がある。
野球少年は参考にしてみよう
今回、ライアンの本を読んでふと気づいたことを書いてみた。いまはYouTubeなどもあり、このようなことをつらつらと思い巡らすのは実に楽しい。
野球少年たちは、ぜひ参考にしてみてください。紹介した二冊の本も、フォームだけでなくメンタルやトレーニングについてもページを割いてあり、おすすめです。
最後に、菅野投手、小川投手、ますますのご活躍を期待しています!
※画像はネット上のものをお借りしました。動画は以下に貼っておきます。( 連続写真は動画から作成)